すーちゃん

 

2003年〜2073年まで。

 

2003年、0歳

 

タイトル:涙と汗とよだれと。

長野県で花岡家の次女として生まれる。

ずーっと泣いたり、喚いたりしていた。父には「お風呂上がった直後でも頭がすっぱかった」と言われる。それが好きだったらしい。変なの。夜中に泣き叫ぶ私をドライブに連れて行ったところ「ケポーッ」と吐く私。

 

 

2006年、3歳

 

タイトル:力強いにおい。

幼稚園。帰りに祖父母の家に行く。いつも庭の土や葉で遊んでいた。

私の一番のお気に入りはローズマリー。幼い私がちぎってもむしってもピンピンしている安心感と洗っても手に残る香り。

こんなに気持ちいいニオイなのに、祖父は虫(ムシ除け?)を感じるといっていてにおいの感じ方は人それぞれなんだなぁ、と。

 

 

 

2008年、5歳

 

タイトル:一気にいろんな記憶。

自然大好きな一方で、幼稚園にあった宇宙船みたいな遊具の鉄の味やにおい。

裸足でいつも遊んでいた。そしてたらいで足を洗う。砂と水と足ふきマットのにおい。

幼稚園にはビワの木があった。甘いけど嗅いだことのないにおい。幼稚園生なのにリンゴやサクランボじゃなくて、「ビワ」を知っているんだという謎の優越感。

 

記憶の匂い:ロングヘアだったので、髪の毛のにおい。この頃かは分からないけど、渋温泉の硫黄や卵のにおい。(これはいい匂いとして覚えているけれど、渋谷の街の腐乱臭を嗅いでも、思い出すことがある。)

 

 

2009年、7歳

 

タイトル:キモイイニオイ。

今も右ヒザに残っているケガ。鬼ごっこをしていてアスファルトでズッコケた。

その時に貼っていた、キズパワーパッドから漏れた惨出液のにおい。臭いし、トロッとしていて黄色くて、気持ち悪いのについつい嗅いじゃう。

 

記憶の匂い:長野市から松本へお引越し。ランドセルの革のにおい。新居のにおい。校舎のにおい。全てが新しい。保健室の先生が好きで、下校のたびに寄ってはおしゃべり。消毒液のにおい。

 

 

2010年、8歳

 

タイトル:背のびのにおい

ギターを習い始める。そこの好きだったスタッフのお姉さんのイケてる大人の人のにおい。ギターの弦のにおい。ヴィレヴァンも大好き。(特に松本パルコ最上階にあったときの)そこで私の趣味や好みは作られたといっても過言ではない。

 

記憶の匂い:本とみたことのない雑貨たちの、ちょっと怪しげな秘密のにおい。

 

 

2012年、9歳

 

タイトル:東京から来たステキな人

東京から転入生がきた。

仲良くしたい!と思った人には、まず手紙を渡す。返事が返ってきて、それから話題を見つけて話しかけていた。

その子とは通学路が一緒で仲良くなれた。松本城のお堀にいるコイに名前をつけて、そこに住むキャラクターを考えて(三角ぼうしくん)その目には見えないキャラクター達のストーリーをつくって毎日下校していた。その転入生といると毎日がワクワクする。

 

記憶のにおい:お堀のにおい。都会のにおい??井戸水のにおい(味)。

 

 

2012年、9歳

 

タイトル:ゴミゴミ大冒険。

お楽しみ会で、友人達と結成した「コマリス劇団」の公演。自分たちで作った物語「ゴミゴミ大冒険」で紙ぐっちゃ役(他にはホコリコさんや敵の掃除機、ホウキなど)を演じる。人前で見せるためにした初めての演技だったかも?緊張と視線。

 

記憶のにおい:授業のない教室のゆるんだ空気のにおい。

 

 

2013年、10歳

 

タイトル:小さい妖精のおっさん。

ニセ通販番組ギャグアニメの中の小さい妖精のおっさんを紙ねんどでつくり、段ボールで家をつくり1人1体名前をつけて本気でかわいがっていた。毎週水曜日に友達の家に行き、パパッと宿題を終わらせ時間を忘れて遊ぶ。

子供を育てているくらいの熱量。(おっさんだけど)

 

記憶のにおい:紙ねんどのにおい。おやつのにおい。人の家のにおい。

 

 

2013年、10歳

 

タイトル:自分よりも赤ちゃん。

犬の蘭ちゃんが我が家へ。

うす暗いペットショップにいた彼女は、子犬だけど大きくて窮屈そうにしていた。でも、我が家にきてからは、とにかくはしゃぎまくり先住猫はビビっていた。

私が小学校から帰ると、犬が自分のうんちを踏んで、そのまま家中歩きまわったせいで、臭くて汚れてて

今までは家族の中で自分が一番子供、という環境にいたのもあり、言葉の通じない、未知すぎる生物に困惑して号泣した。そして母に電話で助けを求めた。

 

記憶のにおい:犬のうんちのにおい。学校帰りの自分の汗のにおい。

 

 

2014年、11歳

 

タイトル:始まりのにおい?

クラス替えがあって、楽しいだけの生活というよりは勉強にも力を入れ始めたりとそれぞれ先の人生について考え始めている。

私は「何がしたいんだろうなあやっぱり、あれだな」と考えている。

そんな中、皇女和宮様の御下向行列を模したお祭りに参加。そこで声をかけて頂いたことが、あれへの第一歩となる。

あれ=女優になること

 

記憶のにおい:着物のにおい。汗とお弁当のにおい。

 

 

2014年、11歳

 

タイトル:なんじゃこりゃ。

ほぼ!人生初の東京。上ばっか見ちゃう。

松本ぼんぼん(松本の大きいお祭り)か?というような人の数。いや、それ以上か。

毎日がお祭りみたいな街それってなんかめちゃくちゃ楽しそうだ!!

行き帰りのバスは爆睡。同じバスに乗って東京へ行く人はみんな何をしに行くんだろうと想像しながら夢の世界へ。

 

記憶の匂い:バスの座席の人の背中がしみついたにおい。東京の全てが混ざりあったにおい。

 

 

2014年、11歳

 

タイトル:選挙!!

児童会長に立候補。男の子3人と私で選挙。ポスターを作ったり演説の文を考えたり。6年生の教室に行くのは本当に怖かった。でも全校生の前で話すのは楽しかった。給食のときに結果が発表される。無事決まったときの給食はいつもより美味しかった?気がする。

記憶の匂い:ポスターをつくるときのマッキーのにおい。

体育館の広々としたにおい。

 

 

2015年、12歳

 

タイトル:勉強してる!風(ふう)。

中学受験をすることにした。図書館での勉強会はUNOやトランプばっかりして、よく司書さんに怒られていた。すみません。

塾にも通い始める。一対一は監視されているようで全く集中できず、みんなで授業を受けるようになって楽しくなった。勉強は好きじゃない、というかキライだけど「夜まで勉強をしている」という事実が気持ち良かった。

 

記憶のにおい:図書館のにおい。塾のカーペットの床のにおい。頭を使ったあとの夜の風のにおい。想像の夕飯のにおい。

 

 

2016年、13歳

 

タイトル:わるくもよくもない。

中学に入り、知らない人が増える。同じ小学校だった人もたくさんいるけど、外部生ということになる。

ここで初めて「友達ができないかも」という不安感。部活動という新しいコミュニティもあり、自分で選ばなくてはいけない責任がある。演劇部を選んだけど、もしかしたらなんか違うかも

半年くらい経ってからはとっても楽しい学校生活だったので、正直あんまり覚えてないけど、なんだかずっとふわふわしてた。

悪くはない。けど良くもないかもという感じ。

 

 

2018年、15歳

 

タイトル:くっだらないのが、楽しいんだよなぁ

最終的に学校はとても楽しかった。今でも仲の良い友達もできた。(どうして話すようになったのか、そしてどうやって仲良くなったのかはよく覚えていない。)何故なのか、トイレ掃除のことをよく思い出す。(他にも修学旅行とか色々あっただろ!と思うけれど)あの個室の詰まった空間と男の先生がズカズカ入ってくることの無い秘密感が居心地よかったのかな。全力で和式トイレを磨きあげる対決をして「このトイレは今中で寝てもいいくらい綺麗」とかなんとか言っていた。中学3年生にしては幼稚すぎるけどそれが楽しかったのだ!

 

記憶の匂い:トイレ用洗剤のにおい。友達の体操服の柔軟剤のにおい。

 

 

2019年、16歳

 

タイトル:ぴっぴ毛布(ぴっぴ毛布はinterestingの感じで発音します。)

上京。高校入学。寮生活。初バイト。

演技レッスン。オーディション。

色々環境が変わったけど、変わったから、あまり具体的なエピソードを覚えていない。

 

記憶のにおい:寮で一緒に暮らすお姉さんの香水のにおい。

バイト先のコーヒーとパンのにおい。

メイクを覚え始め、自分の外見を悪い方向に気にするようになる。(悪い方向に、というのは嫌なところが目につくようになり顔が今までよりすこーし嫌いになってしまった)

コスメのにおい

 

今、2019年を思い返しながら、高校生で上京しコロナの無かったこの時にもっともっと出来ることを沢山やっておけば良かったと後悔する。

過去のタラレバを考えてはウンウン悩んでしまうときは、ぴっぴ毛布を抱きしめてにおいをかぎながら寝てしまえ!(18年分のウンウンが詰まったぴっぴ毛布)

 

 

 

2020年、17歳

 

タイトル:大丈夫、しょうがないよね?

家族で一緒に住む。4人と2匹の生活再び。

不幸中の幸いでコロナ流行のときにひとりぼっちにならなくて本当に良かったと思う。

大騒ぎの世の中に対して私は比較的落ちついていて、ギターを弾いたり絵を描いたりしておうち生活を充実させていた。

その時の私は、私だけが止まっているのではなく世の中全体が止まっているのだから大丈夫、しょうがないという狭い狭い自己中心的な考えでいた。

けど、そう思わないと、きらきらぴかぴかの無敵なせぶんてぃーん像と今の自分が違いすぎて嫌になってしまいそうだった。

 

記憶の匂い:マンションのエレベーターのにおい。新しいニトリのソファーベッドのにおい。そしてマスクのにおい。

 

 

 

2022年、18

 

タイトル:成人。

高校を卒業。通信制でほとんどのクラスメイトとまともに話したこともなく、正直卒業して学校に行かなくなることを何とも思っていなかった。

けれど、大学に進学しない私は「学生」という肩書きが使えなくなったことにすごく戸惑った。世間的には「夢追い人」な訳で(私は夢ではなく目標だと思うようにしている)、職業は女優です!と胸を張って言えるまでになれていない。病院や役所の書類の「職業」の欄に何を書いていいか分からない。

 

記憶の匂い:卒業式に胸につけてもらった花のにおい。初診の病院のにおい。

 

 

 

2023年11月、20歳

 

タイトル:酔っ払い

二十歳の誕生日を迎える。

自分で作った誕生日ケーキと一緒に、初めてのお酒を飲んでみる。酔っ払った私は饒舌でベラベラと思っていることを誰に向かってでもなく話し続けている。

 

記憶の匂い:缶ビールのにおい。生クリームとスポンジのにおい。やっと職業の欄が自信を持って書けるようになる。

 

 

 

2025年、22歳

 

主役の映画の撮影中。

嬉しさ100%怖さ120%感謝200%

記憶の匂い:ヨレヨレになった台本のにおい。じっとりとかき続ける汗のにおい。

 

 

2073年、時飛んで70歳

 

私の髪は白いボブヘアー。カラフルなスカーフを巻いている。

頻繁に映画館に出没し、スタッフの間でスカーフおばあちゃんと呼ばれる。

「よく観に来るスカーフおばあちゃんってさ、もしかして今公開してる映画に出てくるすっごいいじわるなおばあちゃん役の人じゃない?」「でも意外と優しそうな人だったね」なんていうひそひそ声が聞こえて嬉しい私。

 

記憶のにおい:ポップコーンのにおい。自分からお香のような落ち着くにおい。